2014年02月21日

損益計算書にあらわれない「見えざる利益」

投資エッセイ「ストーリーで読み解く決算書」ドラフト28

(損益計算書にあらわれない「見えざる利益」について)

会社が他社の株式を所有する場合がある。
支配している場合(持分割合が概ね50%超の場合)は、その会社は子会社となる。連結損益計算書において、その会社の利益は持分に応じて利益に取り込まれる。
支配には至らなくとも、重要な影響力を持つ場合(持分割合が概ね20%〜50%程度の場合)、その会社は関連会社となる。これまた連結損益計算書において、その会社の利益は持分割合相当分、利益に反映される(持分法による投資損益として)。

では支配もせず、重要な影響力も持ち得ない場合はどうなるか?ただ受け取った配当収入のみが利益にカウントされるのだ。

例えばバークシャー・ハサウェイという投資会社がある。この会社はアメリカンエキスプレスやコカコーラ、IBM、ウェルズファーゴといった上場企業の株式を所有する。

2012年度において、これら4社が稼ぎ出した利益のうち、バークシャーの持分相当は39億ドルであった。しかし、いずれもバークシャーにとっては子会社でも関連会社でもない。それゆえ、バークシャーの損益計算書上、利益に含められたのは、それぞれの会社から受け取った配当収入11億ドルのみであった。

その差額は28億ドル。会計基準は(米国の基準も日本基準も同じく)その「利益」を損益計算に含めることを認めていないが、実質的にその未反映の利益は、損益計算に含められた他の利益とまったく変わることのない利益である。

バフェットはかつて、このような会計処理のゆがみとして表に現れない利益を含めて計算された利益を「ルックスルー・アーニングス(Look through earnings)」と呼んでいた。最近、この言葉を使っているところは見られなくなったが、株主に宛てた手紙のなかで毎年のように言及し、株主の理解を促している(利益には表れなくとも、価値の増加は長い目で見て市場価格に反映されることになるはずである。この価値、知らなければ認識できず、認識できない者はバークシャーの価値を見誤ることになってしまう)。

さて、日本においてもトヨタ自動車の株主にとって、この考え方は重要となる。トヨタもまた、利益に現れない持分利益を多く持つ会社だからだ(その筆頭はKDDI)。

数年前、日経マネー誌からの依頼でトヨタを分析したことがある。その際、有価証券報告書から読み取ることのできる「損益計算に含められない利益」を計算したところ、無視できない規模の見えざる利益がトヨタには存在することが明らかとなり、その分析結果を日経マネー紙上でレポートした。
このような分析を僕は他に知らなかったので、この記事の市場に与える衝撃を思い、どきどきしたものだが、大して反響はなかった。少々がっかりしたことを憶えている。

※追記
その後、トヨタの株価は大きく上昇した。市場価格は、長期的に見て本質的な価値を反映するものであるからして、合理的な動きである。分析レポートは大して注目されなかったかもしれないが、僕個人の投資にはポジティブな影響があったし、注目してくれたかもしれない投資家の方たちの力になれたはずと考えて、良しとしている。

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2014年02月13日

「バフェットの敗北」まとめ eBook

投資エッセイ「バフェットの敗北」 eBook にまとめました。PDF6ページです。
http://www.1toushi.com/books/buffett_behind_the_market_20140213.pdf
posted by SHOJI at 17:32| Comment(0) | 会計と投資 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バフェットの敗北 その3

前回、バークシャー・ハサウェイ社の純資産増加率が、米株価の上昇率に負けたことは、実体経済の回復に比べて株価の上昇が急であることの反映ではないかと推察した。

その陰にあるのはもちろん、ゆるゆるの金融政策。アメリカが今ほど大量のドルを流通させていたことはなかった。

紙幣の大量発行(通貨の供給)によって、ドルの本質的な価値は低下した。

金の価格はここ数年間、右肩上がりで上昇してきた。金融緩和が過激なものになるほどに、急激に値を上げてきた。

ところで、ものの長さを測るとき、定規は勝手に伸縮したりしない。今日の1センチは昨日の1センチと同じだ。そうでなければこまる。

ところが、価値を測定するための通貨はそうではない。今日の1ドルは昨日の1ドルとは価値が異なる。そしてこの状況は日本円もかわらない。今日の1円の価値は、昨日の1円と同じではない。

金は、本質的に何も価値を生まない。過去をかえりみるに、金価格の上昇はインフレの進行と歩調を合わせてきたし、それは合理的な動きでもある。
紙幣の大量発行と同時に金価格が上昇するということは、金の価値が上昇したのではなく、金の価値を測る通貨の価値が下落したと見るしかない。

ドルや円といった通貨の価値の下落は、物価の上昇という形で僕たちの生活に影響を与える。この1年間で日本の消費者物価指数は1.6%上昇した(マネタリーベースの増加率を見ればそれで済んでいることが逆に不思議に思える)。

インフレの芽は金価格のなかに既に見られた。これが株価にもあらわれてきていると見るのは自然なことだろう(あらわれないわけがない)。

たしかに株価は上がったが、それは株式の(会社の)価値の上昇というよりは、ドルという通貨の価値の下落をも反映していると考えるほかない。

物価の上昇と同時に株価も上がる、このことは、株式という資産クラスのインフレ抵抗力を示しているともいえる。

僕たちは何のために投資を行うのか?なぜわざわざリスクを背負おうとするのか?
売った買ったをくり返して儲けるためではない(それは投機かギャンブルだ)。そもそも投資とは、インフレという経済災害から身をまもるために行う行為だということを思い出させてくれる。

証券とは英語で "securities"、 安全、安心を意味する言葉と同じである。その語源をたどれば、ラテン語にある securitas [se-(〜からの解放)+ curita(不安、心配)]に至る。

通貨の価値とは存外、不安定なもの。自らの資産価値をまもるため、保全するために証券を用いる、証券に投資する。

やがて来るかもしれないインフレの時代(その可能性は高い)に備えるために、僕たちは投資を学び、行う。

◎今回のまとめ:
投資とは本来、資産価値をまもるために行うものである。

※初出 2014.2.13発行「楽しい投資ニュースレター」
http://www.1toushi.com/mailmag/
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2014年02月12日

バフェットの敗北 その2

バークシャー・ハサウェイという会社は投資会社であるが、その実態は複合事業体とい
える。もはや上場株投資は主ではない。

リアルビジネス集合体の純資産増加率と、株価指数S&P500とを比較するのに違和感を覚
えるのは、私だけではないと思う。

もともとが投資主体ビジネスから始まったバフェット氏のビジネスなので、その流れで
ここまで来ているのかもしれない。

バフェット氏のビジネスは証券投資を主とするパートナーシップの運営からはじまった
(ピンボールマシン貸し出しはおいておく)。その顧客は運用利回りの最大化を望む一
般の投資家たちだった。彼らにしてみれば、運用利回りが高いものに投資したいと思う
のは当然のこと。

機械的に市場全体に投資する(インデックスファンドに投資する)ことで得られるリ
ターンが、アクティブファンドの稼ぎ出すリターンを上回るのならファンドマネジャー
を雇う意味がない。

高い運用利回りを求める出資者たちに満足してもらうためには、彼らが安価なインデッ
クスファンドに投資して得られるであろう成果を上回るリターンを与えねばならない。

そのためには本質的価値を市場全体を上回る水準で増加させ続けねばならない。
ところで「本質的価値」とは抽象的な概念で、測定するのがむつかしい。そこで、それ
に代替するものとして、純資産の増加率を用いているのだという。

昨年、3/1付で公表されたバフェット氏の手紙では、2012年度は(バークシャーが)市
場全体に負けたことを報告している。そして翌2013年度においても負けるようならば、
5年間区切りでの純資産増加率が市場全体に負けることになってしまう、とも書いてい
る。

単年度区切りでは負けても、5年間という中期的区切りではバークシャーはこれまで無
敗であった(ところで、これを書いていて「むはい」が「無配」と変換されたがたしか
にバークシャーはバフェットの支配下に置かれて以来、一貫して無配である。IMEよく
わかっている)。

バークシャーの純資産増加率を直近5期分(2009年度から2012年度)並べてみると、
-37.0%, +26.5%, +15.1%, +2.1%, +16.0% となる。
2013年度はどうであったか?すでにバフェットは市場全体に対して敗北したことを公言
した。そして、このことは何を意味するのか?

株価の上昇が、実体経済の回復に比べて急に過ぎるのだ。

(※次号に続く)

◎今回のまとめ:
このところの株価の上昇はやや不自然である。要注意。

※初出 2014.2.10発行「楽しい投資ニュースレター」
http://www.1toushi.com/mailmag/
posted by SHOJI at 08:03| Comment(0) | 会計と投資 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バフェットの敗北 その1

昨年は日本株へ投資した者に見返りの大きな年だった。日経平均は二年続けて大きく上
げた。2013年は+58%超(配当込み)という急騰ぶりを見せた。高度成長期かなにかだろうか。

ところで、米国株も同様に上げている。

年末のニュースレターでも書いたが、日本株はUSドル換算ベースでみれば米国株と
ほぼ肩を並べる水準である。日本株のひとり勝ち、というわけではない。

さて、来月末頃にはバークシャー ハサウェイ社・会長からの手紙が公表されることだろう。いわゆる「バフェットからの手紙」である。

本来、バークシャーの株主に向けてのものだが、世界中の投資家が注目する文書でも
ある。同社のHPにアップされているので誰でも読むことができる。

※バークシャー ハサウェイ社HP(株主への手紙)
http://www.berkshirehathaway.com/letters/letters.html

バフェット氏は手紙の冒頭で、バークシャーの業績を株価指数と比較して見せる。毎年
のことである。

彼が重視するのは本質的価値 (intrinsic value) というもの。ただしこれを数字で明
示するのはむつかしい。そのかわりに取り上げているのは純資産である。純資産の増加
率をもって、株価指数(S&P500)の上昇率と比較し、経営成果のひとつとして株主へ報
告している。

ところで、2013年はバフェット氏にとって厳しい年であったと思われる。米国株全体が
大幅な上昇を見せたからだ。
S&P500の昨年の変動率は29.1%、これに配当分を加味して実質的な利回りが計算される。
バフェット氏の経営手腕は、これと比較することで浮き彫りになる(ということになっ
ている)。

いま予想できることは、バフェット氏の敗北である。30%に届かんとする市場全体のリ
ターンを上回る純資産の増加は果たせたのかどうか。正直、厳しかったのではないか。

過去の実績を見るに、バークシャーは近年、おおむね10%台で純資産を増加させてきて
いる。立派な成績ではあるが、昨年、株式市場はそれを大幅に上回る水準のリターンを
もたらした。

実はバフェット氏、2012年も負けているのだ。2010年、2009年も負けている。もし今回
(2013年度)負ければ、五年区切りパフォーマンス比較で初めて市場全体に対して敗北、
ということになる(そうなってしまうことをバフェット氏自身、前回の手紙で言及して
いる)。

バークシャーの純資産には、保有する上場株の時価上昇分も加味されるが、やはり同社
の所有する企業群の稼ぎ出す利益が、純資産増加の主な源泉となる。
ゆえに、株式市場が不調な年度はバークシャーが強く、逆に株式市場が好調なときは、
バークシャーにとっては逆風、ということになる。
(※次号に続く)

◎今回のまとめ
バフェット氏にとって今は(ここ数年間は)意外や試練の時期なのだ。

※初出 2014.1.19発行「楽しい投資ニュースレター」
http://www.1toushi.com/mailmag/
posted by SHOJI at 08:01| Comment(0) | 会計と投資 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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